DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布です。「うちの子はもしかしたら食物アレルギーなのかも」と悩んだことはありませんか。実際のところ食物アレルギーなのか、あやふやなまま悩んでいる飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。「ある食べ物を食べたら、かゆそうにしている。」 それだけでは、食物アレルギーとは言い切れません。食物アレルギーについて理解し、食事の選択肢を広げましょう。 前回の記事:【獣医師監修】ドライフードやウェットフードだけじゃない!知っておきたい犬猫のペットフードの種類(形状)|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.5
もくじ
食べ物に含まれる特定のタンパク質に免疫が過剰に反応し、症状が出ることを食物アレルギーといいます。食物アレルギーの症状はさまざまで、赤み、かゆみといった皮膚に症状が出る場合や、排便回数の増加、嘔吐、下痢といった消化器に出る場合があります。
基本的には人と同じように、アレルギーのある食べ物を一定量食べると症状が出ます。食物アレルギーの場合、症状の程度に違いはありますが「昨日はこの食べ物を食べても全くかゆくなかったが、今日与えたらかゆがっている」ということは原則ありません。
もし、そのようなことが起こっているのであれば、飼い主さんの意図しないところでアレルギーのある別の食べ物を食べてしまっているか、食物アレルギーとは全く関係のないかゆみの可能性があります。
ノミやダニなどの外部寄生虫・細菌・カビ(真菌)・腫瘍・免疫介在性疾患など、食物アレルギー以外にも犬や猫にかゆみを示す病気はたくさんあります。そのため、食物アレルギーと判断する前には、診察や検査、治療によって、他の病気ではないことの確認が必要になります。
犬の場合、食物アレルギーをもつ子の治療において、厄介となるのは、犬アトピー性皮膚炎の存在です。
犬アトピー性皮膚炎は、花粉やハウスダストなど、環境要因が原因となって起こるアレルギー反応です。そのため、季節によってかゆみが変化したり、お散歩後に症状が悪化したりすることもあります。しかし、皮膚を見ただけでは、食物アレルギーなのか、犬アトピー性皮膚炎なのかを判断することは困難です。
また、食物アレルギーをもつ犬の場合、犬アトピー性皮膚炎を併発している子が多いです。食物アレルギーを発症させる対象の食物を全く食べなくなったとしても、犬アトピー性皮膚炎をもつ犬は、症状がすっかりおさまってよくなるということはほぼないでしょう。
現在出ている症状が、食物アレルギーがメインなのか、犬アトピー性皮膚炎がメインなのかは、その子によって異なります。判断するためには、かかりつけ動物病院での厳格な食事管理と、かゆみの評価を行う必要があります。
もちろん猫には猫のアトピー性皮膚炎があるため、食事が関連しているのかの判断をしなければなりません。
「どれくらいかゆそうですか」と獣医師に聞かれて毎日愛犬・愛猫を見ていても、それが昨日よりかゆかったのか、1週間前と比べてどうだったのかを判断するのは難しいもの。
そんな時に役に立つのが、かゆみのスケール評価(pVAS)です。
0から10段階でかゆみを評価するもので、かゆみが全くない場合は0、最もかゆい場合は10と数字をつけます。
数字をつけるときの目安は以下の通りです。
・0:かゆみなし
・2:たまにかゆそう
・4:睡眠中、食事中、運動中はかゆがらない
・6:起きているとき定期的にかゆがる
・8:睡眠中や食事中でもかゆがる
・10:ほとんどいつも、かゆがっている
カレンダーや手帳に毎日この数字をつけると同時に、その日にあったイベント(いつもと違う散歩コースへ行った。新しいおやつを与えた。など)を記載することで、かゆみの経時的な変化を追うことができます。
これにより、季節性があるのか、食事を変更してかゆみが減っているのかなどの判断が飼い主さんも獣医師もスムーズできるようになります。
もう一つの方法として、写真を撮る方法があります。動物病院で写真を撮られたことがある方も多いのではないでしょうか。
これは、皮膚の赤みや脱毛の状態などを定期的に撮影しておくことで、食事や薬の影響の判断に役立てようというものです。
ただし、この方法は撮影条件を常に同じにすることが大切です。同じポジション、同じ光の当たり方で撮影しないと、改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのかの判断がつきにくいためです。
アレルギーを診断するとなると、真っ先にアレルギー検査を思い浮かべる方も多いかと思います。
犬のアレルギー検査には、血液で行う検査でありアレルゲン特異的IgE検査とリンパ球反応検査という2種類があります。
猫のアレルギー検査はアレルゲン特異的IgE検査のみで、犬ほど確立されておらず、積極的に検査がなされない実情があります。
食物アレルギーの検査としては、以前はアレルゲン特異的IgE検査が主流でしたが、近年、犬はリンパ球反応検査のほうが有用であるといわれています。
このアレルギー検査の解釈には注意が必要で、「検査結果の数値が高い=その食物や環境因子にアレルギーがある(症状を発症している原因となっている)」というわけでありません。あくまでも傾向、指標であるということを心にとめておきましょう。
特定の食物にアレルギーが本当にあるのかを診断するには、除去食試験、負荷試験と呼ばれる方法をとらなければなりません。
この試験では、基本的に疑わしい食べ物を抜いたフードと水のみで2か月程度過ごしてもらいます。
その間に症状が改善したら、疑わしい食べ物をあえて食べさせ、症状に再現性があるかを確認します。そうすることで、食物アレルギーの原因となっている食べものを特定します。
インターネット上では、毛で行うアレルギー検査が販売されています。
しかし、これは現在、エビデンスが全くない検査となっています。検査結果によって原因や傾向などは、何もわからないものであるということを知っておいてください。
食物アレルギーの診断は非常に時間がかかります。症状の変化や、検査結果をどのように判断するかも難しいため、飼い主さん独自で食物アレルギーと断定することは困難です。
疑わしいものを与えないことは、食物アレルギーを発症させない方法ではありますが、あれもこれもと自己判断で食事の幅を狭めるのは、動物の生活の質(QOL)を落としかねない行為になります。いつの間にか「これしか食べられない」と悲観的になってしまうことがないよう、飼い主さんだけで判断せずにぜひ動物病院を受診しましょう。
時間をかけてじっくりと「何が原因でかゆみを起こしているか」に向き合っていきましょう。
次回は犬猫の食事の基礎編として、タンパク質とは何か、そしてどうやって与えればよいかについて解説していきたいと思います。